クボタ、米に大型畑作農機、対ディア、緑の巨人に挑戦状、進次郎改革も背中押す。(2016/11/16)

「オレンジ対グリーン」の戦いが米国で始まった。北米でオレンジに塗装した製品を販売しているクボタが畑作用の大型農機「M7(エムセブン)」を投入、グリーンのトラクターで親しまれている米農機最大手のディアに挑む。国内の農機市場には不透明感が漂う。だからこそ「緑の巨人」に負けるわけにはいかない。

「我々にとって米国は最重要市場。手を携えて未来を創っていこう」。オレンジ色のネクタイを締めたクボタの木股昌俊社長は力強く宣言した。10月5日に開かれたクボタの販売店向けのイベント。全米からテキサス州・ダラスに集まった約3千人の販売店関係者たちは、木股社長の言葉に拍手を送った。

日本国内で培った中小型トラクターの技術を使った草刈り機、多用途四輪車(UV)を米国で販売していたクボタ。クボタが今春に満を持して米国で投入したのが畑作用農機のM7だ。ダラス近郊で10月6日に開かれた屋外走行イベントでは、クボタの販売店のオーナーから「ようやくクボタが本丸に挑戦するのか」との声があがった。

クボタの前に立ちはだかるのが緑の巨人だ。

米国では、子どもがトラクターを描くときには無意識のうちに緑のクレヨンを使うという。緑はクボタのライバルであるディアのコーポレートカラー。ディア製農機は緑に塗られて出荷されている。ディアは世界の農機シェアの約4割を占め、連結売上高も約3.5兆円で世界首位だ。クボタの売上高はディアの半分程度で、主力は中小型のトラクターだ。米国では「トラクターは緑」という図式が定着している。

「いつかはクレヨンをオレンジ色に替えてみせる」と意気込むクボタの木股社長。ディアにどう立ち向かうのか。その手立てがM7だ。

M7は130~170馬力で「中大型」に分類される。人間の身長の2倍ほどの高さがある。馬力が大きいほど大型作業機器を取り付けやすくなり、トウモロコシや小麦などを広大な農地で生産する米国に適している。

1つの画面で複数の作業が可能となるタッチパネルを採用するなど操作性を向上させた。手元の操作レバーも1カ所にまとめた。オプションではあるが、全地球測位システム(GPS)などを使って自動運転が可能となるシステムも導入した。クボタの技術を詰め込んだ自信作だ。

日本で使われているトラクターは最大でも135馬力で「中型」に属する。大きさも大人の背丈ぐらいしかない。自動車でいえば大型車と軽自動車のような違いがある。M7の米国での価格は日本円換算で1600万円(170馬力タイプ)。クボタが日本で販売している最大馬力トラクターよりも価格は3割高い。

M7の製品としての評価は高いが、販売は今のところ低調だ。1~9月のM7の販売台数は370台。年初の年間計画の600台を下回る。

背景には、米国産穀物の歴史的な豊作がある。好天に恵まれた今年は小麦やトウモロコシ、大豆など大半の穀物が史上最高の収量になった。その影響で主要穀物の国際相場が下落、農家の懐を直撃した。収入が減少した農家は大型農機の購入を相次いで見送った。

「販売を決めたときにはこれほどの豊作を予想していなかった。タイミングは確かに悪い」。クボタの幹部は厳しい表情をみせる。だが、この幹部は「それでも前に進むしかない」と言い切る。

クボタはコメの生産を担う稲作用農機では世界最大手だ。だが、主戦場である日本では、農業の担い手が減少しており、農機需要も先細りになるのは確実。しかも政府や自民党の農林部会長の小泉進次郎氏が先導している農業改革では、肥料や農薬などと並び農機の価格の引き下げが論点の1つになっている。

クボタはアジアの稲作用農機市場に進出しているが、世界を見渡すと小麦やトウモロコシなど畑で栽培される穀物の作付面積はコメの約3.8倍に達する。畑作用大型農機の世界の需要は4兆円で、その4割(約1兆6000億円)を北米が占めている。米国の畑作用大型農機で存在感を示せなければ世界の農機メーカーにはなれない。

クボタに秘策があるわけではない。ただ、販売店や農家の意見に耳を傾ける姿勢は貫いている。

毎年2月にクボタが開いている「ディーラー・アドバイザリー・ボード」。全米にある約1100の販売店を代表する10人がクボタに改善してほしい項目をまとめる。会合で集まった情報は米国内のクボタの営業部隊やジョージア州にある工場にも伝えられる。現場のニーズを次のモデルに反映させるためだ。

クボタが投入したM7でも販売店や農家の声を採り入れた。

トラクターで土を掘ったり、持ち運んだりするには、「ローダー」と呼ばれるショベルカーの腕のような機器を本体のフロント部に取り付ける。競合企業は安定性を高めるため、「ゼットバー」と呼ばれる部品でローダーを固定させているが、ゼットバーがトラクターの運転手の視界を妨げることがよくあった。

「運転席からの視界がもう少し良くならないものか」。クボタは、開発段階で営業担当者と技術者が米国や欧州などの主要販売店に何度も足を運ぶなか、こうしたニーズの存在に気づいた。

M7では、ローダーの取り付け位置をトラクター本体の内部にしてゼットバーを不要にした。「我々に寄り添い、話を聞いてくれる姿勢が欧米企業と決定的に違う」。テキサス州でクボタの販売代理店を経営するサム・ジマー氏は語る。

「今回は応えられない」と突き返すこともある。「できることと、できないことをきちんと回答する」(米国現地法人の吉川正人社長)のがクボタ流。こうした姿勢が販売店との信頼関係につながる。ダラスで開いたイベントでも、交通費や宿泊費は自己負担にもかかわらず、販売店の参加率はほぼ100%だ。

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