農業の働き手が急速に減っている。看板のコメづくりでは国内需要が落ち込み、農家は生産コストの削減も課題だ。その切り札となりそうなのが農機の自動運転だ。最大手のクボタは人の監視のもと操縦者なしで作業するトラクターを今夏に試験的に発売。2018年にも本格投入するべく機械先端技術研究所(堺市)で電脳化を急いでいる。
「道路とは違う」
車の自動運転化は日進月歩。ならば農機も簡単に……。マザー工場である堺製造所に拠点を置く同研究所を訪ねると、そう単純な話ではなかった。「目印の白い車線もなく、凸凹で直進すら簡単ではない。水でぬかるむ農場は道路とは全く違う」(仲井章平所長)
機械先端研は社内に分散していた電子や油圧技術などの研究者を集めて15年に発足した。約140人が所属する。これまで手放しで直線走行できる田植え機を市場に送り出した。初心者でも運転でき「潜在的な需要を掘り起こせた」(同)。目下、最大のテーマが無人農機「アグリロボトラクタ」。同様のトラクターはクボタによると国内初という。
専用の設備はほとんど持たず、農機や建機など製品別の開発部門が持っている機材を使う。エンジニアもテーマに応じて社内から参集しては談論風発する。機動力が特徴だ。
農機には「安全確認」「田畑での位置の特定」といった特有の技術がいる。トラクターは農作業中に時速10キロメートル前後で走行する。旋回したり後進したりすることも頻繁で、緊急時には急停止しなければいけない。ロボトラクタは地面から80センチメートルの位置で物体を周囲に捉えると自動で止まる。
耳目となるのが距離2~2・5メートルを見張るレーザー3基と、0・5~1メートル程度に備える音響ソナー8基だ。トラクターの操縦室は狭く、両側にはタイヤがむき出し。姿形が複雑だ。センサーの置き所に試行錯誤した。
加えて、ぬかるみで車体が傾けば地面が急速に近づく。そのたびに「異物の接近」と判断して止まると作業にならない。タイヤにへばりつく分厚い泥に反応しても困る。センサーの感度なども微調整している。
位置の特定には、センサーや情報処理の技術開発を担う「計測制御技術センター」(兵庫県尼崎市)などから10人近くが参加した。地図を頼る車と違い農機が動く田畑には道がない。全地球測位システム(GPS)と、車体の加速や姿勢を測定する慣性航法ユニットを組み合わせ、それぞれ信号のノイズを処理するソフトは独自につくった。
「レベル3」狙う
農林水産省によると16年の農業就業人口は192万人と、10年と比べても26%減った。その分、農地が増える大規模農家は効率化が不可欠になる。現在、クボタの技術は農水省の区分で「レベル2」だ。人の監視と第三者が侵入する可能性が低い場所での使用が条件になる。目指すのはその先の「レベル3」。監視者がいなくてもあらゆる作業ができる農機だ。
課題になるのは視覚センサーだ。例えば農機は土と周囲のあぜを見分けなければならない。だが同じ茶色に映る部分をどう自動で認識するか、方法は定まっていない。さらに今のところできる作業は水田や畑の耕運だけ。肥料や農薬の散布など専用装置に対応していない。
それでも国内農業を維持して、生き残りのため輸出競争力まで持たせるには自動化は不可欠になっていく。クボタの研究には最大手メーカーとして重い使命が課されている。
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