2018/03/12 日本の食料事情どうなる―クボタ社長木股昌俊氏、IT農業で生産性向上

 天候不順が野菜の生産を直撃し、値段の高騰が続いている。野菜不足は今後も続くのか。日本の食料事情はどうなるのか。クボタの木股昌俊社長に聞いた。

 ――天候不順で野菜の収量が減りましたが、一過性のものでしょうか。

 「耕作放棄が増え、農地面積と農家の数が減っている。日本の食料の生産基盤はすでにかなり厳しい状況にあり、それがどんどん進行している。いずれコメや野菜を含め農産物が足りないと感じることが増え、値段に響いてくるようになるかもしれない」

 「耕作放棄地を再生させて特産物を作る活動を各地でやっている。荒れ地を解消する起爆剤として盛り上がってほしいと思っているが、なかなか難しい。規模拡大している担い手と呼ばれる農家も、条件の悪い中山間地の農地を引き受けるのは簡単ではない」
価格抑制に貢献

 ――今のところ天候不順ばかりが注目されているように見えます。

 「多くの国民の農業への関心は『もうからなくて大変そうだ』というものだったように思う。これからは生産基盤の弱体化で食料問題になってくる可能性があり、国民にとっても人ごとではなくなる」

 ――農業機械で農産物価格が上昇するのを抑えることはできますか。

 「IT(情報技術)やAI(人工知能)を栽培に活用する『精密農業』の普及に国もメーカーも取り組んでいる。稲作の場合、収量が2~3割増え、コストが2~3割減るというデータもある。値段が一気に4割下がるということはないと思うが、価格の上昇を抑えるのには貢献できる」

 「高齢農家の引退で担い手に農地が集まってきているが、1カ所にまとまらず散らばっているので管理が難しくなってきている。いつどこで田植えをし刈り取りをするのかといった作業計画を、データで処理するシステムが必要になる。自動運転の機械も需要が高まるだろう。人が足りずにできない部分は機械で補っていくしかない」

輸出の余裕減る

 ――国内で足りない分は輸入に頼っています。

 「長い目で見れば、海外から持ってくるのはそう簡単でなくなってくる。例えば消費者の中には中国産に抵抗感のある人もいるかもしれないが、そう言っていられるだろうか。中国で富裕層がもっと増えると、海外に輸出する余裕がなくなるかもしれない。だから日本は国内農業の生産性を高めるしかない」

 ――中国の食料事情はどうなるでしょう。

 「焦点は食用のコメや麦ではなく、飼料穀物だ。食の嗜好の変化で富裕層がもう少しフライドチキンを食べるようになるだけで、カナダの小麦など膨大な量のエサがいる。鶏肉1キログラムあたり4キログラムの穀物が必要な計算だ。牛肉だともっと多くの飼料が必要になる」

 「世界の食料の需給バランスを崩すことになりかねない問題だ。安全保障に関わることなので、中国政府は他国に食料を左右されるような政策は採らないだろう。農家の自主性に任せる部分が多い日本と違い、もし精密農業に効果があると判断すれば一気に普及させるかもしれない」


 きまた・まさとし 日本農業機械工業会の副会長なども務めている。66歳。

0 件のコメント:

コメントを投稿