2018/08/25 最先端の稲作 クボタVSヤンマー

 高齢化や人手不足が深刻になる中、農業で大きなテーマとなるのが稲作の生産性改善だ。国内農機大手のクボタとヤンマーホールディングスは農機市場拡大のため、それぞれコメの新たな栽培方法を提案する。焦点は作業時間がかかる「苗作り」の見直しだ。どちらの農法も大規模農家を中心にじわりと広がる。

 農家は春先にビニールハウスで苗を育て、田植えの時期になると田んぼに運び、田植え機に載せ替えて植えていく。田植えの前の苗作りの効率化は生産性改善のカギを握る。ヤンマーホールディングスは2016年から苗作りや田植えの時間を3分の1に減らす栽培法「密苗(みつなえ)」の普及に取り組んでいる。

 苗を育てる苗箱に通常の2~3倍という250~300グラムの種もみをまき、密集させて育てる方法だ。苗箱の数は3分の1になり手間も減る。理屈は単純だが、栽培法として確立するには時間がかかった。

 きっかけは石川県のある農家の思いつきだ。大規模農家では何千箱もの苗箱を使うため、作業負担が重い。

 12年に農家からヤンマーに連絡があり、試したところ良い結果が出たという。そこで石川県も巻き込んで実証実験を始めた。試行錯誤を続けるなかで苗に病害菌が付くなど課題も見つかったが、ビニールハウスの栽培環境を見直しクリアした。

 ヤンマーは16年12月、密苗仕様の田植え機を発売した。密集させた苗を苗箱から3~5本ずつ高精度にかき取り、水田に植えていく。かき取り面積は従来の3分の1の0.5平方センチメートル。箱の動かし方を工夫し、きちんと植えられるようにした。

 京都府の農業生産法人は「半信半疑だったが、順調に成長しうまくいった」とし、今後すべて密苗に切り替えるという。

 ヤンマーは20年に密苗の作付面積を現在の7倍以上に増やす計画。ヤンマーアグリ農機推進部の鈴木哲也部長は「農家の高齢化や人手不足に対応し、作業負担を減らせる栽培方法や農機に力を入れる」と強調する。

国内シェア、2社で過半

 農機の世界市場では米ディア、オランダのCNHインダストリアルの欧米2社が畑作用の大型農機を武器に先行する。世界の畑作面積は稲作の4倍あり、市場規模も大きい。一方、稲作中心の国内は中小型を得意とする日本企業の寡占市場となっている。経済産業省の推計によると、2015年の国内の農機市場のシェア(出荷額ベース)は、クボタが35%でトップ、ヤンマーホールディングスが21%と続く。

 ただトラクターなど主要3農機の国内出荷はこの20年で半分以下になった。販売拡大には国内農家の経営改善や海外への展開が欠かせない。クボタが進めるのは安定した国内基盤を確保しつつ、欧米や中国を中心とした畑作用の大型農機の市場開拓だ。15年には大型トラクターを投入し、世界首位の米ディアの牙城に挑む。一方、ヤンマーは17年2月には国内3位の井関農機と農機の相互OEM供給の拡大で合意。北海道を中心に米ディアの大型農機も販売している。
農機無人運転でも競う

 省人化や収穫量の増加などを狙った最先端の農業手法でも両社は火花を散らしている。クボタはトラクターでは無人運転を実用化しており、田植え機も研究中。20年を目標に無人運転のコンバインの発売を目指す。事故を防ぐために障害物と稲を識別するといった課題はあるが、画像認識技術で乗り越える。ロボット農機が走り回る「無人の水田」の実現が近づく。

 ヤンマーは10月に自動運転のトラクター、来春をめどに田植え機を投入する。コンバインは自動化よりも収穫量の把握に重点を置く。センサーやICT(情報通信技術)を活用し、コメの品質や生産性を高める。

平均年齢67歳、省力化需要高く、関西の農家

 関西の農家を取り巻く状況は厳しい。日本総合研究所によると、関西2府4県では農家の平均年齢が67.1歳、農地に対する耕作放棄地の比率が11・5%に達する。それぞれ66・4歳、10・5%だった全国を上回る水準だ。7

 和歌山県を除くと、需要が減っている稲作の割合が全国より高いのも特徴だ。人手不足などで「食品大手や外食大手の野菜の契約栽培の注文に応えられていない」(北陸近畿クボタ)という面もある。

 全国でも農業就業人口は2015年までの10年間で4割減った。ただ耕作面積の広い大規模農家も増えており、省力化や低コスト化のニーズは強まっている。農家の経営改善を支援し、さらに競争力を引き上げる取り組みが、メーカーにとっても成長につながる。


 苗作りそのものを省く栽培方法がクボタの「鉄コ」だ。種もみの表面を鉄粉でコーティングし、水田に直接まく。農業・食品産業技術総合研究機構が東南アジア向けに開発した方法だが、クボタは専用農機を開発して国内での普及を進める。

 種もみをそのまま水田にまくと、水で流されたり、鳥に食べられたりしてしまう。鉄粉でコーティングすれば、水田に沈むうえ、表面が硬くなり鳥が食べなくなる。

 クボタは鉄コに対応した直播(じかまき)機を開発。種もみを5~6粒ずつ直線上に水田にまきながら、肥料や殺菌剤も同時に散布して農作業を効率化する。発芽期に水田から水を抜くなど手間がかかる部分もあるが、ある程度育てば通常の稲作と同じ育て方で済む。

 一般的な稲作では育苗と田植えが年間の作業時間の3割を占める。鉄コではこうした作業が不要。3年前に導入した滋賀県の農家は「苗作りが要らず省力化できる」と話し、来年は鉄コの栽培面積を5割増やす予定だ。

 鉄コは稲刈りまでの栽培期間が通常に比べて1週間ほど延びてしまう。ただ「通常の田植えと組み合わせれば、収穫時期の分散など繁忙期の負担軽減にもつながる」(クボタアグリソリューション推進部の広兼以斉氏)。人手を増やさずにコメ栽培面積を広げられる。

 もっとも課題もある。鉄コによるコメ栽培面積は2万ヘクタール程度で足踏みが続く。理由は出芽後の幼苗を食い荒らすジャンボタニシの存在だ。温暖な気候の西日本で発生しやすい。クボタは住友化学の改良品種や農薬を組み合わせて20年までにコメの生産コストを2~3割引き下げる計画だ。

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